インドの民話
「99頭の牛を持つ男と1頭しか持たない男」を紹介します。
ある貧しい村に二人の男が住んでいました。
二人は共に幼いときから身寄りがなく、力を合わせて生きてきました。
ある時、一人は、
「こんな貧しい村にいつまでいてもだめだ。自分は町に出て大金持ちになる。
一緒に町にでよう」
と言いました。
すると、もう一人は答えました。
「僕はこの村が大好きだからここで頑張ってみるよ。君が町へ出て成功する
事を僕は心から祈っているよ」
こうして二人は、それぞれの人生を歩み始めました。
町へ出た男は、100頭の牛を得るという目標を立て必死で頑張りました。
しかし、百頭の牛を得るのは、なかなか大変なことでした。
思うようにならないことばかりです。
それでも彼は歯を食いしばって頑張り、やっと99頭の牛を持つ身分になりました。
ただ、どうしても最後の1頭を増やす事ができませんでした。
牛を得るためにあくどいこともし尽くしましたから、
もう彼に騙される人もいなくなってしまったのです。
そんな時、彼はふと同郷の友人を思い出しました。
「そういえばヤツはやせこけてはいるが牛を1頭持っていたはずだ」と。
彼は何とかして友人から、最後の一頭を騙し取ろうと考えました。
そこで、いろいろと策を巡らせた挙句、事業に失敗したように
芝居をしようと考えました。
彼は町へ出てから初めて自分の生まれ故郷に戻りました。
ボロボロの身なりになって親友を訪ねたのです。
村の男はびっくりして彼を迎えました。
「町で頑張っているという噂を聞いて僕は君のことを誇りに
思っていたのに、どうしたんだい」
「確かにいいときもあったんだ。でも、悪いやつに騙されて、
とうとうこんな恰好になってしまった。そしたら急に村が、そして
君のことが恋しくなって、いてもたってもおられず君に会いに来たんだよ」
村の男は彼を迎え入れ、二人は積もる話を夜更けまでしました。
次の朝、村の男は尋ねました。
「君、これからどうするんだい」
町の男は答えました。
「今は何も考えられないんだ」
村の男はさらに尋ねました
「見てのとおり、僕は妻子もいて昔と変わらず貧乏だけれど、
君のために何かしてあげたいんだ。何か僕にしてあげられる
ことはないかい」
町の男は言いました。
「滅相もない。僕は君に頼ろうと思って戻ってきたのではないんだ。
ただ君に会いたくて・・・。ただ・・・、いま牛が1頭あれば
なんとか急場をしのげるのだけど・・・。」
村の男は困りました。
ただ一頭のやせこけた牛は、自分の妻とたくさんの子ども達を
養うために欠かせないものだったからです。
この会話を耳にしていた、村の男の奥さんが自分の夫を呼びました。
「あなた、何を迷っているのですか。あなたの大切なお友達が困って
おられるのですよ。牛なんかいなくたって私達みんなで牛の分まで働けば
何とかなりますよ。あなたのお友達は全てを失ってしまわれたのですよ。
私達には牛がいなくても、広くはないけれど耕す土地もあるし、そして
何よりかわいい子供たちがいるではないですか」
と。
村の男は、奥さんの言葉を聞いて自分の事しか考えていなかった事を
恥ずかしく思いました。そして、村の男は町の男のもとに戻り
「是非この牛を役に立ててほしい」と言いました。
町の男は、村の男の足元にひざまずき
「ありがとう。これで何とかなるよ」と礼を言って、牛を引いて帰って
行きました。
この先どうなるのか、このお話はここで終わるのだそうです。
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どちらの男が幸せだと思いますか?
「幸せ」の定義は人それぞれだと思います。
村の男のように、困っている友人の為に大切なものを差し出しても、自分には素晴らしい妻そして子供がいる事だけでも幸せだと感じる人もいれば、
町の男のように、目標や欲しいものを追い求め、どんな手段を使ってもそれを手に入れる事にしか幸せを感じない人もいるでしょう。
自分にとっての「幸せ」とは何かを考えさせるお話だと思いました。
2024.06.27